「子どもが欲しいな」
そんな友人達との会話に紛れた、何気ないありふれた言葉が、私の中に確かにあった恋を終わらせた。
生理がとても重かった、重いけれど重いだけ、そういう体質と信じていた。
一回生理になると、腰も背中も酷く痛んで、下腹部は「痛い」何て言葉では表せなかった。鉛でも入っているような気がした。ベッドに懐いて3日間は立ち上がれない、暖かくして寝ていても、痛みで目が覚めてしまう。
そんな体だった。
体質たがら仕方がない、と諦めていた。
月に一回、一週間…それの最初3日間だけ、だから我慢しなきゃいけないと、
自分に言い聞かせていた。
そういうものだと…そういう体質なのだと、思っていた。
一生そうやって、付き合っていくのだと…思っていた。
市販薬では効き目が無くなって、貧血みたいに普通に立っていることができなくなったときに、友人に体質にあった薬を処方して貰えると聞いて、クリニックに行ってみた。
少しでも和らげばいい。
そんな程度の、軽い気持ちだった。
…そんな気持ちだった。
「ほっておくと、手遅れになります。早急に手術する必要があります。」
何で…?
確かに辛くて…無くなってしまえばいいと、いらないって思った事もあるけれど、それは本心なんかではなくて…。
何で自分なのだろう?
当たり前に、そこにあったものが、無くなってしまった…。
体はよくなった、でも何か、ほんの少し寂しい気持ちになった。
そこから数年は、当たり前のような生活を送った。
朝起きて、会社に行き、働いて、時々残業して、残業がない時は飲みに行ったりする。
休日には友人とショッピングに行ったりする、そんな生活。
そんな生活の中で…愛した人がいた。
笑顔が優しくて、困ったときの顔は可愛くて、ここぞというときには頼りになる、話していると、安らげる…そんな人。
必然のように、惹かれた。
一緒にご飯を食べに行ったり、映画を見に行ったり出来た。
見るだけで、声を聞くと、愛しくなる人。
話が出来る、一緒にいられる
幸せ。
そんな毎日。
相手の気持ちを、確かめたことは、なかったけれど。
自分の気持ちを伝えた事は、なかったけれど。
でも…心を通わせられている、そんな気がした。
そんな気がしていた。
親しい友人達との楽しい食事、弾む会話で出た言葉。
「子どもが欲しいな、やっぱり親には孫を見せてあげたいよね」
床が抜けで暗い穴に落ちた、そんな気持ちになった。
子供
当たり前のように、許されている、好きな人と一緒になって、好きな人の子供をお腹に宿して、血を繋いでいく…自然の流れ。
当たり前ではなかった。当たり前には、できない事だった。
好きな人の望みを、叶えてあげる事ができない自分。
好きな人。
愛しい人。
愛しくて…大切な人。
幸せになって欲しい人。
自分には、叶えてあげることのできない望みを持っている人。
好きだから騙して、一緒に居たかったけれど、愛しているから、罪悪感が募った。
…だから。
好きな人の前から姿を消した。
好きな人に会えなくなった。
けれど…
朝起きて会社に行き、働いて残業して、家に帰って少しお酒を飲んで寝る。
休日にはボランティアをしたり、週末講座を聞きにいったりする…そんな当たり前の日々を過ごす事ができる。
たまに…何かをなくしてしまったような、ほんの少し寂しい気持ちになる時もあるけれど…
好きな人がいる。
愛しい人がいる。
幸せ。
終わってしまった恋の話。
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